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更新日:2018年2月16日

新編安城市史4通史編「現代」

 解説  はじめに / あとがき / 各章概説

  
 はじめに

 現代部会編集委員  岩 崎 正 弥

 ここに『新編安城市史4 通史編 現代』が世に出ることになった。
 本巻は、現代史という特殊性を考慮して、他の巻にはない工夫を凝らしている。もっとも大きな特色は、いわゆる編年史叙述を採用せずに、あえて分野別・項目別の通史叙述をした点である。

 現代史とは、今を生きる私たち一人ひとりの人生と重なっている。当事者として生きてきた人々の半生の全体が、現代史を構成するのである。したがって、現代史とりわけ地域現代史の叙述は、読者(地域住民)の記憶による検証の過程を通して、つねに叙述自体の真実性が問い直されるという宿命を背負う。
 年表や文書に書き留められる出来事は、記録として残された歴史であり、それらが現代史の重要な構成要素であることはいうまでもない。ただ、詳細な記録群が、必ずしも歴史の細部と核心を浮かび上がらせるわけではない。歴史を見る場合、繰り返されていた日常が繰り返されなくなるような、静かでゆるやかな、しかし決定的な断層を明らかにする必要がある。人々の記憶の重要性がここにある。記憶と記録は相互に補完しあい、記録が記憶を蘇らせることもあるだろう。だから私たちの課題は、いかにして記録と記憶の双方に目配りした通史を描くのか、さらには安城の固有性を巧みに浮かび上がらせつつ、しかも市民に親しまれる市史を作るにはどうしたらよいのか、ということだった。

 こうして私たちは、冒頭に記したように、編年史叙述を放棄し、あえて分野別・項目別の通史叙述に挑戦することにした。政治行政を軸として網羅的に出来事群を位置づける編年史よりは、安城の固有性に関わる項目を選択し、その変容がくっきりと読み取れる分野史的な叙述方法を貫くほうが、上の課題により迫れると判断したからである。そして文書資料だけでなく、聞き取りやアンケート調査等も利用しながら、安城現代史の再構成に努めた。

 この意味で、本巻は自治体史の定番からははずれ、政治行政史というよりも、社会史的な内容を多く盛り込む構成になった。しかし、そのことで、むしろ時代の変化の中で市民生活がどのように変わり、市民の意識がいかに変化し、また地域社会がどう変容してきたのか、産業面の分析にも力を入れながら叙述することができたと思う。ただ編年史叙述ではないため、章ごとの若干の重複、力点の相違や不統一が見られなくもない。この点は読者にご寛恕いただけるよう願うばかりである。
 ともあれ、市内外の歴史に関心のある専門家だけでなく、一人でも多くの安城市民が、本巻を通して安城現代史の特徴を読み取っていただき、安城の未来に向けた取り組みにも役立てていただければ、編者としては望外の喜びである。

 なお、本巻もまた、執筆者の力だけではなく、チームとして編集されたものである。聞き取りや資料提供等で、じつに多くの市民にご協力いただいた。この場を借りて厚くお礼を申し上げたい。また、事務局の献身的な努力にも、併せて感謝の意を表明しておきたい。

 平成二十年三月

 

 あとがき

 現代部会長  阿 部 和 俊

 監修者の新行紀一先生を通して『新編安城市史』編纂のお話しをいただいたのは十年前の一九九七(平成九)年のことである。前『安城市史』が全ニ巻であったのに対して、今回の企画は、資料編・通史編あわせて全十一巻という大規模なものであった。

 『新編安城市史 現代編』の部会長としてこの大企画に参加した私は、直後の部会長会議で、編集委員代表(それは同時に、さらに上位の編纂委員の一員でもある)に選出された。現代部会の進行係を努めると同時に全体の司会進行をも担当することになったのである。『新編安城市史』のスローガンは岡田仁顧問の言葉を借りれば、「市民に親しまれ、書架の肥やしにならない市史」である。きれいに装丁された箱入りの市史は、たしかに図書館などの書架では見栄えのいいものであるが、多くの人が手にとらないのでは本来の使命を果たすことにならない。

 市史のような刊行物において、つねに問題となるのは編年体の目次にするか、項目別の目次にするかということである。数回にわたる検討の後、今回の目次構成に落ち着いたのであるが、これは岩崎正弥編集委員のアイデアである。この目次構成により、部会メンバーの能力が活かせると同時に、読み易い構成になったと自負している。
 もう一つの問題は「日本デンマーク安城」をどのように評価するかということであった。現代部会の担当範囲は第二次世界大戦後から今日までである。安城が日本デンマークと称される農業先進地域と評価されたのは大正時代のことである。戦後もそれは受け継がれたのか、都市化・工業化の進展によって消滅したのか、大きな問題である。読者の方々は、この問題意識を本書のいたる所に見いだすことができるであろう。楽しんでいただきたい。
 
 ここで、通史の各章の内容を簡単に紹介しておきたい。

 序章「安城現代史への誘い」は、安城市の概要と本書の問題意識と課題が的確にまとめられている。本書の構成は、どの章から読み始めても楽しめ、また、理解できるようになっているが、この序章から読み始めることをおすすめする。
 第一章「戦後安城の風景」では、戦争の痕跡、社会・政治の民主化の潮流・市制施行、そして戦後の大改革の一つであった農地改革を通して、戦後の混乱期の安城のすがたが生き生きと描かれている。これらのことは、いずれも多くの年配の市民の方にとっては、あるいは身近な事がらであり、知識であったかもしれない。時の経過とともに戦争の風化が問題となっている今日、ここで整理され記述された内容は後世の人々にとって重要な情報となるであろう。
 第二章「地域の論理」では、行政面から見た安城が描かれている。日本の市町村の歴史は合併の歴史でもあった。昭和の大合併、平成の大合併によって市町村のすがた、とくに範域がかつてとは比較にならないほど広がった。市町村合併の問題はいうまでもなく、範域の拡大よりも組織の改変の方である。また、合併についてはつねに市民感情の問題がつきまとう。換言すれば、時として壮大な人間ドラマが展開される。第二章では、これらの問題が手際よく整理されている。
 第三章「女性と家庭の風景」は、文字通り安城の女性と家族との問題に取り組んだ章である。本書ほど真正面からジェンダーと女性問題に取り組んだ市史も珍しいのではないか。安城は先進的な農業地域であったがゆえに、農村の女性問題は重要である。先進的な農業地域から先端的な工業都市へと変質していく安城の中で、揺れ動く女性の地位とすがたが鮮明に描き出されている。
 第四章「生活における学びの風景」は、若者ら青年に焦点を当てた章である。戦前の、とくに農村部においては、青年団はきわめて重要な組織であった。青年団は単なるグループではなく、将来に向けて多くのことを学ぶ社会教育の場であった。しかし、いずこの青年団も高度経済成長期の中で大きな試練を迎える。工業化と都市化の波の到来によって青年団のもつ意味がやや小さくなり、団員数の減少がおきるようになった。安城では、さまざまな取り組みや運動を通して、青年団活動の継続への努力が積み重ねられてきた。その実態があきらかにされている。
 第五章「工業都市への変貌」では、農業に代わって市産業の中心となっていく工業と工業化の検討が中心テーマである。安城は、戦後しばらくは繊維工業が中心であったが、高度経済成長期以後は輸送用機械器具工業や一般機械工業を中心とする中堅の工業都市である。表現を変えれば農都から工都への変身である。その最大要因はまぎれもなく、トヨタ自動車工業の存在であるが、安城市としては工場誘致条例(一九六〇年)を制定することによって市の方向性を明確にした。この条例の制定以後、数多くの工場が進出し、工都安城への転換が著しく進んだ。本章ではその過程が具体的にとらえられている。
 第六章「まちづくりの挑戦」の中心課題は進展する都市化の実態の解明である。戦後、とくに高度経済成長期以後の安城の変化を特徴づけるのは工業化と都市化であった。本章では、都市化の進展をベースに、人口動態、インフラの整備、デンパーク開園の意義と実態、商圏構造と中心商店街の変容の諸点から安城のすがたがあきらかにされている。
 第七章「農の風景とその未来」では、安城の農業的特性と農村の変容が解明されている。、近代以後の安城を安城たらしめていたのは先進的と評価された農業と農村組織であった。しかし、工業化と都市化によって安城の農業は変化せざるをえなかった。本章では、この変化を「農の風景」というキーワードであきらかにしている。「日本デンマーク」としての安城は有名である。しかし、「日本デンマーク」以後の安城の農業と農村はそれほど知られていない。それらは、日本の他の農業地域とおなじようなものになったのか、依然として先進的な農業地域になりえているのか。本章でその実態が詳細に記述されている。
 第八章「市民福祉の向上をめざして」では、戦後の安城における「福祉」をめぐる行政・市民の取り組みやできごとが中心テーマである。戦後復興期、高度成長期、低成長期から現在までの「市民福祉」のバックボーンとなる国レベルでの福祉政策や制度を簡単に跡付け、その展開の中で、安城では行政や市民がどのように「市民福祉」を模索し、取り組んできたのかといったことが描かれている。
 第九章「教育と子どもの未来」では、戦後の安城の教育が取り上げられる。戦後の日本において大きく変わったものの一つは教育である。もちろん安城も例外ではなかった。日本デンマークの成功の一つは教育であったといわれるように、安城はもともと教育熱心な土地柄であった。このことが、戦後の早い時期に「安城プラン」「安祥プラン」という先進的なカリキュラムが開発されたことにつながったと評価することはまちがいではないだろう。両プランの他、本章では安城の教育施設や設備の充実過程も記述されている。また、子どもの遊び空間の変化も都市化の進展との関係で解説されている。
 第十章「日本デンマークの新しいかたち」では日本デンマーク後の安城のすがたが解明されている。安城のキーワードは日本デンマークであり、その変容である。それはまた生活面からみれば、豊かになった社会とそれにまつわる諸問題である。日本デンマークからの変化は何よりも日常生活の変化であった。本章ではさまざまな観点からこのテーマが検討されている。

 以上が『通史編 現代』の概要である。執筆分担表に明記してあるように、本書は共同執筆の箇所は一つもない。個人プレーの寄せ集めである。しかし、寄せ集めにありがちな、コンセプトの不統一はないと考えている。読者の皆さんには、どこから読んでいただいても楽しめるように構成しているが、できることなら、序章から読み始めていただきたい。その方が安城のすがたをよりよく理解していただけるはずである。

 各執筆委員においては、それぞれの担当章の意図をよく理解してすぐれた原稿を提出していただいた。また、監修者の新行紀一先生には、原稿の不備なところを余すことなくご指摘いただいた。心より感謝する次第である。事務局の方々にも多大なご支援をいただいた。深く感謝する次第である。その他、調査などにおいてご協力をいただいたすべての方に、この場をかりて感謝の意を表したいと思います。不十分な点があるかと思いますが、安城市民の方々に本書をお届けできることを喜びとしています。願わくば大いにご活用くださいますよう、お願いいたします。

 平成二十年三月 
 

 

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市民生活部アンフォーレ課 

電話番号:0566-76-6111

ファックス:0566-77-6066

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