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更新日:2018年2月16日

新編安城市史11資料編「自然」

 解説  はじめに章解説) / あとがき 

  

 はじめに

 市史編集委員(自然部会長)  大 和 田 道 雄


 この度、安城市史自然部会が平成10年に発足してから約7年余り、ようやく600 ページにも及ぶ『新編安城市史11 資料編 自然』を発刊するに至った。これもひとえに市史編さん委員会会長の神谷学市長をはじめ、市史監修者の新行紀一愛知教育大学名誉教授、安城市教育長および市史編集委員会、並びに市史編さん室の方々の絶大なるご支援の賜物であり、深く感謝の意を表したい。

  自然部会は当初、地形・地質分野と気候の2分野のみであった。これは、過去の市史の多くに自然的要素を取り入れたものが数少なかったからであろう。しかし、その地域の風土や景観の歴史過程と自然条件とは切り解せないものであり、 また、近年における安城市の著しい都市化や地域開発による自然環境の変貌を考えた時、他分野も含めた自然環境の現状把握が重要であろうとの認識に立たざるを得なかった。そこで、阿部和俊市史編集委員代表をはじめとする編集委員会のご理解を得て、新たに水文分野と動物分野、および植物分野を加え、平成10年2 月7日に5分野からなる自然部会準備会を発足させたのである。

  その結果、地形・地質分野は牧野内猛名城大学教授、水文分野は森和紀日本大学教授(当時は三重大学教授)動物分野は佐藤正孝名古屋女子大学名誉教授(当時は同大学院教授)植物分野は堀田喜久氏(愛知県植物誌調査会事務局) および気候分野は大和田(愛知教育大学教授)が編集委員として各分野の取りまとめを行うことになり、各分野の調査執筆委員には長谷川道明氏(豊橋市自然史 博物館学芸員)、石川由紀氏(名古屋女子大学非常勤講師)、小林元男(愛知林業 センター主任研究員)、および倉田哲氏(三重県立津西高等学校教諭)が編集委員の補佐、調査・観測の指揮、および執筆にあたることになった。また、自然部会の調査協力員は部会全体で12名であるが、調査・観測には四季を通して地道な地域調査活動が必要であり、調査には数多くの市史編さん整理員のご協力を得た。 したがって、自然部会は各分野が独自に調査・観察、および資料の収集を厳しい予算の中で精力的に実施してきた。その結果、過去の他市史では例をみない充実した自然編を刊行することができたと自負している。ここに、調査に協力を惜しまなかった多くの方々に深く感謝の意を表したい。

 

  第1章の地形と地質は、第1節の地形と地質のあらましから第7節の活断層と地震までで構成されており、第1節では西三河平野の地形区分と地形・地質のあらましが地史年表にまとめられている。また、第2節からは安城市の地形に触れ、 安城市の平坦な地形が基本的に沖積面と碧海面に分けられるため、ボーリング柱状図から碧海面、および沖積面の数多くの地質断面図を作成し、その形成要因を明らかにしている。さらに、堆積物の酸素同位体比から最近15万年間の海面変動を推定し、碧海面と矢作川の河床面との傾斜の比較による碧海面形成当時の海面レベルを推定している。また、第5節から第6節において安城市の深部地盤と形成史、第7節で中部地方西部の活断層の分布から、安城市周辺の活断層に言及し、 三河地震や東南海地震等の特徴と地震被害について触れている。したがって、碧海面に位置する安城市の地形・地質の形成要因のみならず、今後の災害に対する地形学的な予測についてもまとめられている。専門用語の解脱等、市民にわかりやすい記述になっている。

  第2章の気候では、第1節の序論で安城市の気候学的位置付けがグローバルスケールでなされ、第2節以降は安城市全域における四季を通した気温や風、および大気汚染の分布形態が明らかにされている。さらに、これらの観測資料から、不快指数による夏の暑さや冬季の酷寒指数を求め、実際に肌で感じる暑さ・寒さを図に表した。さらに、市街地を中心として形成されるヒートアイランド観測を実施し、ヒートアイランドの分布とヒートアイランド強度を求めた。これは、安城市の大気環境保全に向けての重要な観測資料である。第5節の植物季節では、 安城市の気温分布と桜の開花日との関係が求められていて、市民が身近に気候を 感じることができる工夫がなされている。第6節の気象災害では伊勢湾台風や東海豪雨を例に挙げ、その原因と被害状況について言及している。また、特筆すべきことは、第7節で気候環境の実態を市民にわかりやすい三角図法を用いて学区単位で表したことである。これは、安城市の環境教育を進めるための基礎資料になるであろう。

  第3章の水文は、第1節の水資源とその利用で安城市の水資源賦存量を降水量と蒸発数量から求め、雨水の地下水への涵養促進を促している。さらに、安城市の水需要を生活用水、工業用水、および農業用水に分け、歴史的過程を経た使用形態を明らかにし、明治用水の担ってきた役割の重要性が述べられている。また、 第2節では、矢作川を中心とする水系網の河川の水温、水質、および河川流量の調査結果を踏まえ、安城市内を流れる主要河川の水質比較を行った。特に、第3節の油ケ淵の採水調査では、水質汚濁の現状と塩水遡上との関係についても言及している。さらに、第4節の地下水では、市域に散在する井戸を利用した測水結果から、水質変化の要因と地下水位の季節変動、および地下水流動の実態を明らかにしている。これらの地道な成果は、安城市の今後の水需要と供給との関係を予測する重要な手掛かりとなるであろう。

  第4章の植物は、第1節で膨大な植物観察調査を踏まえ、早春から冬までを9季節に分けて植物暦を作成している。ここでは多くの植物がカラー写真で掲載されていて、安城市民に解りやすい解説となっている。実際に、第2節では植物観 察のために11の散策コースが地図入りで紹介されており、これまでの市史ではみられない親切な内容になっている。例えば、村高町~川島町矢作川右岸コース、 水戸町~野寺町本證寺コースという具合である。また、第3節では植物相の特徴について森林・湿地・水田・路傍等、生育地別に表にまとめられており、小坂井町や旧田原町等の他市町村との比較も行っている。さらに、安城市の自生種と帰化植物の分布地域の特徴に触れ、帰化植物が開発地域に多いことを明らかにしている。第4節からはシロバナナガバノイシモチソウ、アゼオトギリ、ノジトラノオ、スズメノハコベ等の絶滅植物や絶滅危惧植物の分布にも触れ、自然環境の悪化を指摘している。植物写真が色刷りであることから、読んでいても綺麗で親しみやすい記述がなされている。精力的な植物調査とその成果に対し敬意を表したい。

  第5章の動物は、第1節の研究史から第7節のヒトとの共存を求めてまでの7節から構成されている。第2節の動物相では、マイマイやオサムシの地域的な変異を述べ、ほ乳類相、鳥類相、チョウ相、甲虫相、クモ相について近隣地域との比較がなされている。市民参加による動物調査の報告にみられる市民の関心の高さにも注目したい。また、第3節の矢作川の動物では魚類の生息調査から、矢作川でアユやオイカワ、ニゴイ、コウライモロコ、カマツカ、シマドジョウなど13 科34種類の魚類が確認されている。さらに、川の浅瀬に生息する水生昆虫類や、 河川敷で四季を通して観察される野鳥についても詳しい記録がなされており、カラー写真によるより親しみやすい構成となっている。第4節では油ケ淵周辺の魚類や貝類・鳥類を述べ、第5節以降では、市内で特に注目したい動物を紹介し、 都市開発による自然環境の変貌が動物に与える影響について述べ、人間との共存を模索する内容になっている。調査では、動物の目撃情報やフン、死骸なども生息を知る手掛かりとなっており、調査協力員のみならず、市民との連携による貴重な調査結果が満載されている。

  以上の5章からなる自然編は、内容が充実しているだけでなく、安城市民が日ごろ感じている自然に対する意識の確認と新たな発見を提示する内容となっていることから、是非お勧めしたい。特に、自然環境の歴史的変遷は、今後の変貌の予測のみならず、自然環境の維持・保全に向けて行政と市民が一丸となって取り組む問題点を発掘する手助けができると確信している。
  最後に、自然部会発足当時から、多種多様の自然部会の分野に対応していただき、また、協力を惜しまなかった歴代の安城市史編さん室の方々、さらに、調査に参加・協力していただいた多くの安城市民の方々に、自然部会を代表して心より深く御礼申し上げる次第である。

  平成17年6月

  
 あとがき

 自然部会編集委員 植物担当  堀 田 喜 久


 郷土の自然をまとめた『新編安城市史11 資料編 自然』がここにようやく日の目を見たことを、まずは安城市民の一人として率直に慶びたい。また、自然部会の一つである植物担当の一人としてこの事業に参画する機会を与えていただいたことに感謝の意を表したい。

  言うまでもないことだが、安城市史は安城の歴史について記述することを目的としている。先史の時代から今日まで、この地域を舞台に演じられたさまざまなドラマに焦点をあて、発掘した資料からドラマの今日的意味を解釈・記述することが安城市史の本来の目的である。ドラマの舞台は安城というローカルな地域であるが、ドラマの内容は、 近隣諸地域とのさまざまな係わり合いの中で展開してきた。イギリスの歴史家、アーノ ルド・トインビーはかつて「歴史の研究」の中で、一国の歴史はその国に「自足的あるいは孤立的ではありえない」と指摘したが、安城の歴史もまた、安城と近隣地域との間で相互に影響しあってできあがった、ダイナミックなドラマであったと言えよう。
  その壮大なドラマを演じてきたのは疑いもなく安城を郷土とする人々であり、その土地の自然・風土と決して無縁ではない。安城という土地の気候や地形といった、自然の総和が生み出す風土によって人びとは大きな影響を受け、その影響のもとで思想を形成 し、行動を起こしてきた。元内閣総理大臣中曽根康弘氏は、石原慎太郎東京都知事との共著「永遠なれ、日本」の中で、自分の行動原理は、幼少のときから人間や家庭、共同体、郷土によって体に教え込まれ、自然にしみ込んだものから来ていると語り、「そういう風土、大自然から受けた何ものかが、私の体に染みついていたと思います。子どものころからの話ですから、もともとそういう自然が好きなDNAが私の中にあったのかもしれません。」と述懐している。この観点から見ても、歴史的ドラマを記述する市史の中に、資料編としての「自然」が含まれるのは理由なしとしない。

  今回の資料編は、地質、気候、水文、植物、動物の5つのテーマから安城の自然、風土に光を当てようと試みたものである。もとよりこの5つのテーマで自然のすべての要素をカバーできるとは考えていない。すべての自然を網羅するには、それこそ膨大な数 の専門家や研究者を必要とするし、それだけの数の専門家や研究者を集めることは事実上不可能なことである。今回選択されたテーマだけでも、それぞれ異なる専門家や研究者が必要であるし、とりわけ動物と植物の場合には、種の同定(判定)と分類という困難さがつきまとう。自然というものは、わずかな研究者でまとめられるほど単純なものではなく、想像以上に幅が広く、また奥が深いものである。動物と植物が専門を異にするのは自明であるが、同じテーマの中でさえ異なる研究者を必要とする場合が多い。例えば、蝶と甲虫では研究者が異なるし、同じ水中動物でも魚とプランクトンでは専門の領域を大きく異にする。こういう専門領域を異にする人たちの間をいかに調整するかと いうことと、動植物の研究に欠くことができない種の同定と分類の問題をいかに克服するかは、「自然」編が内包する課題であり、自然部会の編成初期段階から頭の痛い問題であった。種の同定・分類については、幸いにしてそれぞれ専門家のご指導とご協力が得られ、また、調査の実施にあたっては、多くの調査員や一般市民の協力を得ることで 解決がはかられたが、各テーマ間の調整については最後まで困難がつきまとった。部会長の大和田先生のもと、自然部会が何度も開催され、例えば温暖化の実態とそれが生物に与える影響度合とか、動植物の観察マップ作りなど、共通課題の取組みについて何度も議論されたが、各テーマの実態調査と解析に時間がとられ、最終的にはテーマごとの実態調査と解析結果を総合するだけに終始した嫌いがあり、それだけが心残りと言えば心残りであった。

  とは言え、安城の自然が5つのテーマから解明できた意義は決して小さくはない。筆者が関係した植物の分野で言えば、それまで、安城は野生植物の面では不毛の地と見なされ、長期間にわたって、平凡種と外国から侵入した帰化植物が目立つ魅力に乏しい地 域だと思われてきた。しかし幸運にも、調査兼執筆を担当した慧眼の持ち主である植物研究家、小林元男氏の参画を得たことで、1,000種類を超える植物が確認され、その中には国や県レベルで絶滅危惧種に指定される貴重な植物も少なからず生育していること が判明した。つまり安城は、平坦な土地柄にもかかわらず意外に野生植物の多様性こ富んだ地域であったということになる。今回の調査で見つかった絶滅危惧種を含む安城の貴重な植物を保護し、その生育環境を緊急に保全する必要があるため、小冊子「安城の植物―安城市の貴重な草花」をまとめて出版したが、これは副次的効果とは言えその意義はきわめて大きい。しかも、かつて畔柳英一氏が標本採取した貴重な標本の一部が、 稲垣英夫氏を通じて愛知教育大学の標本庫に保管されたことも意義深いことであった。こうした意義深い出来事は、植物以外のテーマにも見られ、本編の随所に既述されている通りである。

  自然環境は、残念ながらますます悪化している。温暖化は進み、水は汚染・富栄養化し、動植物は絶滅の危機に瀕している。20世紀の後半から始まった技術革新と急速な文明化への移行は、確かに私たちに利便性の高い生活をもたらしたが、一方で、環境の破壊と私たち人間に精神的な荒廃をもたらしたのではないかと危惧されている。ワシントンDCのアース・ポリシー研究所の所長で高名な地球環境学者レスター・ブラウンは、「プランB」という近著の中で、地球に加えられた加速的な圧迫とその危機について警告し、危機に頻した地球を救出し、持続可能な社会を実現するエコ・エコノミーを提案しているが、地球的規模の危機的状況は、ローカルなこの安城においても例外ではない。 自然部会は本編を通じてこの問題についても幾度となく言及しているが、とりわけ動植物においてはいっそう危機的状況にあると言わなければならない。すでに絶滅したものに加えて、調査期間中にもこの安城から姿を消した貴重な植物が少なくない。動植物が住めない環境に私たち人間が住めるはずはない。動植物が絶滅してゆくことは、結局は、人類の滅亡につながることになる。私たちはこうした現実にももっとよく眼を向け、安城の貴重な自然的財産を保護し環境保全にいっそうの努力をする必要があるし、保護・保全のために何を為すべきかを考え実行してゆくことは、安城市民一人一人に課せられた責務でもあると考えている。私たちの子孫がこれからも豊かで多様性に富んだ自然・風土の中で育まれ、この地域を舞台にして他地域あるいは他の国々と新にダイナミ ックで壮大なドラマを演ずることができるものと信じたいし、それは可能なはずである。 本編がこの面でも安城市民の役に立つのなら望外の幸せと言うべきであろう。

  最後に関係者の皆様にお礼を申し上げたい。まず、安城市史に関係する皆様、とりわけ大和田部会長をはじめとする自然部会の皆様、それに調査にご協力くださったすべての皆様、そして、貴重な資料をお見せくださったり、有益なご教示あるいは情報を提供してくださった安城市民の皆様に、この場をお借りして心からお礼を申し上げます。加えて、自然部会発足当初から今日に至るまで自然部会に対し格別のご尽力をくださった 市史編さん室の皆様にも、心から感謝の意を表します。

  平成17年6月

 

 

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